蒲郡のボートレースメモリアル
蒲郡でメモリアルが開催されるのは今回で8回目になる。初ナイターSGや、篠崎元志と峰竜太の激闘と涙など、思い出に残るレースばかり。中でも凄まじかったのが第28回大会、彦坂郁雄と野中和夫の戦いだ。8回目の蒲郡メモリアルでは、どんなドラマが生まれるだろうか。
走れば勝つ、売上も上がる 絶頂期を迎え快走続ける 安心と信頼の「艇王」彦坂
どうしても記憶から消えないレースがある。それが1982年の第28回大会である。
当時、東京支部に彦坂郁雄という選手がいた。特別戦24場制覇、期勝率1位になること20回、37連勝、生涯優勝179回、特別戦77優勝の記録は破られていない。整備違反で引退したが、「艇王」と呼ぶにふさわしい強さを誇っていた。
彦坂のレースを追い続けて全国を回るお客さんもいた。彦坂が走れば売上が上がるので、「彦坂を1日3回走りにしたらどうだ」という声もあったくらいだ。
F3&八項で300日の休み前 大ケガ直後のSGで優出 それが「モンスター」野中
不動の強さを誇る彦坂に敢然と挑む選手が、大阪に現れた。中学校の同窓生だった横山やすしさんが視力でボートの選手になることができず、その想いを引き継ぐ形で、24歳でボートの選手になった野中和夫である。メキシコに空手の指導者として派遣される予定だった。
「俺は漫才の世界で日本一になってみせる。お前はボートの世界で日本一になってくれ」。
やすしさんとの約束を守るため、野中は勝つためにあらゆる挑戦をした。野中の記録は期勝率9.53と、年間優勝16回うち特別優勝12回。昨年、峰竜太が年間V16に挑戦したが、並ぶことはできなかった。こちらも「モンスター」と呼ぶにふさわしい記録を持っている。
絶頂期を迎えていた東の彦坂に対して、西の野中は1年間のブランクの後に訪れた復帰後初のSG、委員会推薦での出場が第28回メモリアルだった。
艇王とモンスターの対決と言っても、それだけなら特に注目を浴びることはないだろうが、野中はフライング3本、反則失格(妨害失格)で事故点は75点、蒲郡のメモリアルが終わると「八項」とフライング休みで300日の長期欠場も控えていた。加えて、直前の浜名湖周年で顔面を8針縫うケガを負い、右眉を剃り落としていた。その姿は鬼気迫るものがあった。
優勝戦で実現 ! ! シリーズ最初で最後の艇王vsモンスター対決
シリーズに入ってからの彦坂は、いつものように超快速で1着を並べて予選を得点率1位で通過、野中も2位で予選を通過、ともに準優1着で優出した。
優勝戦の枠番抽選で彦坂が引いたのは、インから最も遠い1号艇。野中は4号艇を引いた。今は準優の着順と予選得点率で優勝戦の枠番が決まるが、当時は優出6名による抽選制。また、ピットの1~6号艇の並びが逆で、6号艇がイン取りに有利な枠番だった。
準優の後に行われたテレビ向けの優勝戦インタビューで、野中は何を質問されても「優勝します」と、その一言を繰り返した。安部邦男の進入規制違反(現在の待機行動違反)で繰り上がり優出した淺香登も「出たからには優勝を狙います」と気合が入っていた。
優勝戦出場選手コメント
「出足と回り足がいい。1号艇だからコースは流動的だね。一応4、5コースからの全速捲りかな」
2号艇 高辻 幸信
「準優は2マークでツイていましたエンジンはもう言うことなし。負けて元々で行きます」
3号艇 淺香 登
「優出したけど複雑な気持ちです。一から整備をやり直します。出たからには優勝を狙います」
「超抜とゴッスンの足や。スタートはもう気にせんで行く。インやったら優勝できると思う」
5号艇 紫垣 順一
「ええ方です。1本(F)持っているので気になってスタートが安定しないけど、気楽に行きます」
6号艇 平尾 修二
「シャフト調整で出足が良くなったけど、優勝戦に入ると落ちる。インからスタート勝負する」
(月刊競艇ダービーより)
締める彦坂、弾き出す野中 優勝戦は手に汗握る大混戦 激闘の結末は…
優勝戦は壮絶な戦いになった。4号艇の野中がピット離れで飛び出し、インを奪取する。1号艇の彦坂は一旦3コースにまで入っていたが、45秒前にエンストして回り直し。5コースに引いた。
スタートは彦坂が早かった。スリットの段階で1艇身前にいた。そこから迷わず絞って行く。1艇、また1艇と潰す。ところが、野中が黙っていなかった。猛然と1マークで彦坂に反発した。2人して大きく流れる。
隙を突いたのが淺香だった。2マークは淺香が先取り、大きく流れた位置から野中が追い上げる。彦坂は先行する淺香から10艇身は離れていただろうか。
2マークは野中が巧かった。先行する淺香の内懐に差しで飛び込む。2周目ホームでは絞る淺香に野中が反発し、競り合いは2周1マークまで続く。
2周1マーク、また先行する2人がターンマークを行きすぎた。外に艇を持ち出していた彦坂は、この機を逃がさなかった。ブイ際を差すと、そのまま2周目バックへ抜け出し、野中はここで力尽きた。
東西2強、戦いを終えて…
着順 | 枠番 | 選手名 | 現住所 | 進入 | ST | 節間成績 |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 1 | 彦坂 郁雄 | (千葉) | 5 | 12 | 2 1 1 1 2 1 1 |
2 | 3 | 淺香 登 | (三重) | 2 | 28 | 2 1 6 3 1 4 3 2 |
3 | 4 | 野中 和夫 | (大阪) | 1 | 26 | 1 1 3 3 1 1 3 |
4 | 5 | 柴垣 順一 | (大阪) | 3 | 25 | 2 6 2 2 3 4 2 4 |
5 | 6 | 平尾 修二 | (香川) | 4 | 21 | 2 6 3 5 1 2 5 |
6 | 2 | 高辻 幸信 | (愛知) | 6 | 33 | 1 1 1 2 5 1 6 |
ピットに引き揚げてきた野中は、迎えに来た中道善博を見つけると「やっぱ、スタートを行き切れんかったわ」と一言。これから300日の休みが控えていることを聞くと、「ハワイの連れのとこへ行って、ゴルフでもしながらゆっくりするわ」とだけ答えて戻って行った。
その傍で、優勝した彦坂が優勝カップを高々と掲げ、マスコミの撮影に応じていた。
二段捲り炸裂!新良がSG初V
6号艇に地元の鈴木がいた。4号艇に西島、2号艇に安岐とくれば、スロー域のコース取りが乱れると思われた。カドを取った者の優勝かと思われたが、本番は鈴木がピット離れであっさりとインを取り切った。1マークで先に安岐が捲りに出る。だが、新良の駆け引きが一枚上だった。伸びてくる植木を止め、安岐の上に二段捲りを仕掛けた。これが見事にはまった。深夜に地元に戻った新良をファンが待っていた。
着順 | 枠番 | 選手名 | 支部 | 進入 | ST |
---|---|---|---|---|---|
1 | 3 | 新良 一規 | (山口) | 4 | 20 |
2 | 5 | 瀬尾 達也 | (徳島) | 6 | 12 |
3 | 1 | 植木 通彦 | (福岡) | 5 | 10 |
4 | 2 | 安岐 真人 | (香川) | 3 | 18 |
5 | 4 | 西島 義則 | (広島) | 2 | 49 |
6 | 6 | 鈴木 幸夫 | (愛知) | 1 | 28 |
▲決まり手=つけまい
今垣、初のナイターSGを制す
初のナイターSGということで注目を集めた大会だった。スタート展示は12346/5で、5号艇の田村だけがダッシュの判定になった。
モーターが完調に近い濱野谷のイン逃げかと思われたが、なんと本番で今垣がインを取った。濱野谷が伸びたが、今垣の1マークが巧かった。濱野谷を寄せ付けないターンで一気に先行態勢を築き、初のナイターSG覇者に輝いた。
着順 | 枠番 | 選手名 | 支部 | 進入 | ST |
---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 今垣光太郎 | (福井) | 1 | 10 |
2 | 1 | 濱野谷憲吾 | (東京) | 4 | 13 |
3 | 4 | 新美 恵一 | (愛知) | 2 | 11 |
4 | 3 | 岡本 慎治 | (山口) | 3 | 15 |
5 | 6 | 田村 隆信 | (徳島) | 6 | 16 |
6 | 5 | 西田 靖 | (東京) | 5 | 14 |
▲3連単 2-1-4 1,270円
▲決まり手=逃げ
「ナイターの帝王」今垣が連覇
この年からスタート展示が始まった。スローとダッシュがスタート展示で判定され、本番はその通りのスタートをしなければならない。スタート展示では大外になった今垣が本番ではスローの5コースに入った。スタートは単騎ガマシの原田がコンマ04と仕掛けた。絞って行くが今垣が抵抗して先捲り、原田は差しに切り替える。インの鳥飼とバックで3者併走。2マークで鳥飼と原田が競ったところを今垣が差した。
着順 | 枠番 | 選手名 | 支部 | 進入 | ST |
---|---|---|---|---|---|
1 | 3 | 今垣光太郎 | (福井) | 5 | 16 |
2 | 6 | 原田 幸哉 | (愛知) | 6 | 04 |
3 | 2 | 辻 栄蔵 | (広島) | 2 | 31 |
4 | 1 | 鳥飼 眞 | (福岡) | 1 | 27 |
5 | 4 | 吉川 元浩 | (兵庫) | 3 | 30 |
6 | 5 | 田頭 実 | (福岡) | 4 | 23 |
▲3連単 3-6-2 6,480円
▲決まり手=抜き
差し一閃!魚谷がSG連覇達成
地元から赤岩と池田が乗っていたが、1コースに遠い枠番だ。本番は赤岩がスローの4コース、池田はカドの5コースを選択。スタートで池田が先手を取ったが、赤岩が伸び返す。1マーク、この2人をけん制するようにインの山本が先マイも流れ、そこを2コースから魚谷が差した。オーシャンCに続いてSG連続優勝を飾った。レース直前に競輪の小嶋敬二からの「挑戦しろ」のアドバイスが大きかったと言う。
着順 | 枠番 | 選手名 | 支部 | 進入 | ST |
---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 魚谷 智之 | (兵庫) | 2 | 17 |
2 | 1 | 山本 浩次 | (岡山) | 1 | 26 |
3 | 4 | 池田 浩二 | (愛知) | 5 | 09 |
4 | 6 | 赤岩 善生 | (愛知) | 4 | 14 |
5 | 3 | 市川 哲也 | (広島) | 3 | 14 |
6 | 5 | 笠原 亮 | (静岡) | 6 | 19 |
▲3連単 2-1-4 2,380円
▲決まり手=差し
レジェンド今村、最後のSGV
2000番台は今村ただ1人。モーターも27%と数字がなかったが、立て直してきた。優勝戦1枠を手にした時「ここまでは100満点」と、SG優勝を確信させるコメントをしていた。本番は枠なり進入。誤算だったのは2コースの濱野谷だ。前節のケガの影響かコンマ25と立ち遅れた。3コースから中島が覗いてくる。だが、今村が伸び返すのを見て、差しに構えた。今村は全速で攻める仲口を制し、中島の差しも許さなかった。
着順 | 枠番 | 選手名 | 支部 | 進入 | ST |
---|---|---|---|---|---|
1 | 1 | 今村 豊 | (山口) | 1 | 17 |
2 | 4 | 仲口 博崇 | (愛知) | 4 | 16 |
3 | 5 | 今垣光太郎 | (福井) | 5 | 16 |
4 | 6 | 平本 真之 | (愛知) | 6 | 14 |
5 | 3 | 中島 孝平 | (福井) | 3 | 14 |
6 | 2 | 濱野谷憲吾 | (東京) | 2 | 25 |
▲3連単 1-4-5 2,490円
▲決まり手=逃げ
峰、篠崎元に逆転を許し号泣…
「GPシリーズで優勝した選手は、他のSGで優勝できない」というジンクスがあった。篠崎は12年GPシリーズで優勝してから5度もSGの優勝戦に乗っていたが、2度目の優勝は果たせないままだった。一方、峰も11年からSG優勝戦に8回乗るものの優勝はなかった。2人の戦いとなった優勝戦は、1マークで篠崎が抜け出し、2マークで峰が逆転。2周1マークで峰がターンミスした所を篠崎が見逃さなかった。
着順 | 枠番 | 選手名 | 支部 | 進入 | ST |
---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 篠崎 元志 | (福岡) | 2 | 06 |
2 | 1 | 峰 竜太 | (佐賀) | 1 | 05 |
3 | 5 | 中島 孝平 | (福井) | 5 | 08 |
4 | 4 | 下條雄太郎 | (長崎) | 4 | 08 |
5 | 6 | 坪井 康晴 | (静岡) | 6 | 07 |
失 | 3 | 市橋 卓士 | (徳島) | 3 | 11 |
▲3連単 2-1-5 3,620円
▲決まり手=抜き