the INTERVIEW

選手生活23年で身体は一番良い状態。
ファンの期待に結果で応えたい。

速いものは美しい、そんな形容がぴたりと合う。ターンの完成度を高めるために長い時間をかけてきた。猛練習に明け暮れた日々、メンタル面の強化に取り組んだ日々、そして今は体幹トレーニングと、ストイックなまでに「完全」を追求する。その先に見据えるのはもちろん、地元で開催されるオールスター優勝だ。

(インタビュー&構成/『マンスリーBOAT RACE』依藤研二)

うおたに ともゆき
1975年(昭和50年)11月2日生まれ。兵庫支部・76期。
1995年5月、尼崎でデビュー。
2004年2月、尼崎・近畿地区選でGI初優勝。06年10月、福岡・ダービーでSG初優勝。翌年にはオーシャンCとメモリアルでSG連覇を果たした。同期には樋口亮、原田幸哉、瓜生正義らがいる。

力を正確に伝えること
中心がブレないターンは尼崎で覚えた

―魚谷さんは1995年5月、尼崎でデビューされました。

魚谷 僕がデビューしたのは阪神大震災の年で、尼崎もしばらく開催を休止しました。再開してからは、その分を取り戻そうと毎日のように開催していたので、僕らもほぼ毎日、練習ができました。
 当時、試したことがあるんですよ。燃料を満タンに入れて、シラケン(白石健)とフルレバーで「全速ターンで何周できるか、勝負や」言うて。11周か12周目で、スカスカスカ…ってなりました。フルレバーだとやっぱり怖いんです。サイドが掛かれば良いけど、掛からないと吹っ飛んで行きます。
 尼崎での練習を通じて、力を正確に伝えること、中心がブレないターンとかを覚えました。若い頃はできないことがたくさんあって、「できるようになりたい」とひたすら思っていました。レースで失敗したことは課題として持って帰って、尼崎でできるようになるまでやりました。
 「これで行ける!」と思うくらい練習してレースに臨むと、楽しいですよ。新しい技が身につくみたいな感じです。

メンタル面で最も大切なのは
感情の起伏を最小限にすること

―以前、メンタル面の強化に取り組んでおられましたが…。

魚谷 グラチャンの優勝戦でフライングをした頃(2004年・浜名湖)ですね。SG復帰2戦目のダービー(05年・津)の1走目でまたフライングして…。そのあたりで、真剣に考えなアカンなと思いました。
 いろいろな本を読んだり、アドバイスを受けたりして、メンタル面を強化した結果、福岡のダービーで優勝することができました。

―メンタル面で大事なのは何でしょうか。

魚谷 ボートレースに合った、メンタルの強さに気づくかどうかです。高ぶる感情を抑えて、自分をコントロールできるようにならないといけない。感情が高まるままにレースをしたら、それこそフライングしたり、事故になったり、良くないことが起こります。たまたまツボにはまって、びっくりするようなターンができるときもありますが、長い目で見たら失敗のほうが多い。それではダメなんです。
 コントロールができるようになるまで、凄く時間が掛かりました。今も100%はできていないと思いますよ。

―ここ2、3年は上り調子です。

魚谷 調子の悪かった時期は、年齢的にもモチベーションを保つのが難しい時期だったこともあると思います。モチベーションというか、それこそメンタルですね。苦しかったときは、前検遅参とか、考えられないようなミスをしてしまったんです。
 そんな苦しい時期を抜けてから、またボートレースが楽しくなってきました。やりたいこともいっぱい出てくるし、それをこなしていくうちに、勝手に成績も良くなっていきました。

良いモーターはプリンのように
グサッと掛かってスーッと回る

―最近は引いたモーターに左右されます。

魚谷 前検で2周くらい乗ったら良い、悪いがわかります。エンジン音、体感や、足合わせでもわかります。
 今まで一番良かったときは、“プリンの上を走っている”みたいな感じでした。びわこで一度あったんですけど、グサッとサイドが掛かって、サイドが掛かったまま旋回が終わる。直線もサイドが掛かっているみたいにドッシリしていて、相手が勝手に消えて行ったんです。
 ダメなときは音が割れているし、プリンみたいな感じがあっても直線で置いていかれる。そうなれば、あの手この手で「何とかしよう」となります。忙しいですよ。

―調整のパターンはありますか?

魚谷 前検日にもらったときはプロペラは見ません。まずはそのまま乗ってみて、自分の好みの感じかどうかを確認します。感じが良ければ、自分のプロペラと全然違う形でも、そのまま行きます。それでゲージを取ってデータにして、自分の引き出しを増やします。
 逆に、出ていると言われるモーターを引いても、自分の体感と違っていたら容赦なく叩くようにしています。自分の感覚だけが頼りです。

理想の身体を求めて
トレーニングジムで鍛える日々

―トレーニングジムに通われているそうですね。

魚谷 元競輪選手の松本整さんのジム・クラブコング(京都府)でお世話になっています。元々競輪が好きで、松本さんには08年の立川グランプリに行ったときに挨拶させていただきました。「体を見て欲しいんです」と言ったら「うちに来い」って言っていただけたので、それからお世話になっています。
 トレーニングの内容は、ボートレースに必要な筋肉をつけたり、ケガをしないように強化したりです。僕は腰痛持ちなんですけど、腰痛が出にくいようにするトレーニングもあります。
 あとは体幹トレーニングですね。柔軟性を養いながら、強化する方法です。松本さんとマン・ツー・マンで、パワーチェンジトレーニングという、マシンを使いながらの変わったトレーニングもしています。昨日も11時から3時半くらいまでやりました。
 今、全身筋肉痛です。10年続けても、アカンねぇ(笑)。段々とハードルが上がって行くし、厳しいトレーニングを要求されるので、毎回キツいです。

―魚谷さんの目指す、理想の身体とは?

魚谷 しなやかで、瞬間的に強い力を出せる身体が理想です。でも全然。今でもダメ人間の烙印を押され続けているんで…。それでも、以前に比べると良くなったと思います。転覆も減ったし。選手生活23年くらい走っていますけど、身体としては一番良い状態かもしれないです。

ファンに選ばれて出るSGだから
レースの結果で応えたい

―ファン投票でオールスターに出場します。

魚谷 ファンの方に選んでいただかないと走れないSGなので、レースの結果で応えたいと、ほとんどの選手が思っていると思います。僕もそういう思いで臨んでいます。
ただ、もうひとつ結果が出ないんですよ…。空回りしているのかな?

―今年は地元・尼崎での開催です!

魚谷 エンジンが変わって間もない段階のSGなので、手探りでしょう。そこにアドバンテージはありません。
 尼崎は難しいレース場だと皆が言っているし、実際に走っていても困らせられることが多いです。水質が硬いし、乗りやすい海水面の感覚で乗っていると、吹っ飛ぶこともあります。意識していないと痛い目に遭うレース場です。たくさん走っているので、そこはアドバンテージがあります。もちろん地元SGの優勝は、大きな目標の1つです。

魚谷 智之選手 データ室 (2018年4月12日現在)
◆通算成績
出走回数 優出 優勝 2連率 3連率
通算 5,275回 228回 81回 52.3% 69.2%
SG 729回 14回 3回 38.6% 57.1%
GI 1,900回 60回 11回 45.9% 64.5%
◆全国成績(最近3節)
18年 3月 浜名湖 SG・クラシック 1 5 6 5 3 1 2 2 2
18年 3月 徳 山 一般競走 5 3 4 2 3 1 1 2 3 1 3
18年 2月 唐 津 GII・MB大賞 6 2 1 2 2 2 3 1 失
◆尼崎成績(最近2節)
18年   1月 タイトル(正月戦) 1 1 2 2 2 3 1 3 3 2 3
17年 11月 GI・周年 2 5 1 1 4 4 1 5 6 2

良いエンジンを引いて、期待に応えたいですね

「尼崎の水面は基本、良いですよ。他所に比べて風が吹いて荒れることは少ないし、向かい風が多くレースはしやすいです。2マークは返し波があるので、全速で回るためプロペラをしっかり合わせたい。でも走り慣れているし、気にはなりません。

ファンは、以前ほど歓声やヤジを聞かないかな。住之江の方が凄いですね。まあSGですし、気温も温かくなってきたので、多くの方に本場へ足を運んでもらいたいですね。

オールスターは新エンジン(5節目)ですからね。最初は整備がなかなかできないからエンジンの差は大きいと思います。良いエンジンを引かないと勝負にならないですね。

普段から行き足やスリット近辺の足を求めていきます。最近の尼崎では、そこそこ良いエンジンを引いているので、プロペラの調整もわかっています。他所の場と比べると、合わせられる可能性は高いかな。

オールスターは自分の成績では出場することができないレースです。それも地元ですからね。気合は勝手に入ってくると思うので、投票してくださったファンの期待に応えたいです。そのためにも良いエンジンを引きたいですね」