業界初の母娘レーサーとして注目を集めた最優秀新人選手・大山千広が、ついにSGデビューを果たす。しかも、得票数4位でドリーム発進というオマケつき。テレビの密着取材最終日に初1着、母の代わりに出たレースで優勝するなど、ここぞという場面で最高の結果を出してきた娘に、母・博美さんも「凄い」と絶賛。この勝負強さなら、SG第1走で水神祭も不可能ではない。

（インタビュー＆構成/『マンスリーBOAT RACE』武内達也）

まだまだ成長途中のデビュー5年目。　目標は切れのあるターンで捲り差し！

― 千広さんが選手になろうと思ったきっかけは、やっぱり母・博美さんの影響ですか？

千広　そうですね。ずっと見ていたわけではないけど、母のレースを見て、心臓がすごくドキドキしたのを覚えています。高校への進路を決めるときに「ゆくゆくは選手になりたい」って相談しました。
博美　将来の選択肢のなかに“選手になる”っていうのがあるのは仕方がないと思っていました。でも、できれば選手になって欲しくなかった。この職業は何があるかわかりませんから…。

― デビューから4年経ちました。

千広　結果だけを見れば、悪くないと思うし、満足していないわけではないんですが、レースは失敗のほうが多いですね。4年の間にもっと上手くなっておきたかった。周囲の期待に応えたい思いもあるけど、それ以上に、自分自身に対する焦りがあります。
博美　優勝もしているし、私は「頑張っているな」って思っているんですが、本人はきっと違うことを考えているんだろうなって感じます。
千広　上のレベルの方々とは、やっぱり艇の向け方とか、ターンが全然違います。普段のレースを見ていてもそうですし、ヤングダービー、芦屋の地区選で一緒に走って、自分のターンとの差を感じました。
　体の大きさが違うので真似をする気はありませんが、今は自分に合った乗り方を探っているところです。男子選手みたいな切れのあるターンが目標。凄い向きの捲り差しができるようになりたいですね。

― スタートはどうですか？　博美さんは早かったですよね。

博美　私はスタートを行って捲ることしか考えていなかったから。レーススタイルが違いますよ。ターンの仕方も全然違いますし。私のは“昭和のターン”です（笑）。
千広　スタートの質が悪いことも課題ですね。スタートで遅れたくないので合わせてしまいます。母のレーススタイルですか？　好きな体感に調整すると、伸びがこないので…。

母の心配を余所に…初1着は母から奪取。　期待最高潮のシーンで、ビシッとキメる！

― 3回目の母娘対決で千広さんが水神祭！

千広　デビューから1年経っても1着が獲れなかったので、良かったなと。さすがに母を相手に初1着は予想していませんでしたけど（笑）。
博美　「ここで獲らなくても！」というのが、正直な感想（笑）。
千広　選手になると決めたときから、母娘対決があるだろうと思っていました。自分の中ではイメージできていたので普通のことでしたが、周りの反応が大きかったですね。
博美　初対決（15年・福岡お盆戦）の前日は、なかなか寝付けませんでした。「ちゃんとレースできるかな」とか、「事故なく走れるかな」とか、いろいろと考えてしまって…。キツかったですね。
千広　母が引退した今では、母娘対決も良い思い出です（笑）。

― 昨年の児島・オールレディース優勝は運命的でしたね。

千広　引退した母の代わりということは、追加斡旋の連絡を受けたときに聞いていました。初めは意識していなかったけれど、1号艇で優勝戦に乗ったときは意識しましたね。
博美　「有難う」というよりも「凄いな」ですね。引退した私の代わりに千広が走ってくれて、優勝してくれた。注目されているときに最高の結果を出すなんて、やりたくてもできることじゃありません。
千広　母とは児島の節間の話はしましたが、優勝したことについてはあまり話していないんです。お互いに恥ずかしさがあったと思います（笑）。
博美　実は初1着のときも、NHKさんの1年間密着撮影の最終日だったんですよ。その場に居られて、一緒に水神祭ができて、とても幸せでした。
千広　オールスターでこれだけ多くの投票数をいただけたのも、たくさんのメディアに取り上げていただいて、初1着や児島の優勝に母が関わっていたことが大きいと思います。今は実力よりも話題性が先行しているので、実力も早く追いつきたいです。

ターン、整備とも今は土台固めの時期。　エンジンが出なくてもターンで凌ぎたい！

― 最優秀新人選手に選ばれるほどで、実力も十分だと思うのですが。

千広　まだまだ失敗することのほうが多いし、そんなことは全然思えません。もっと実力があって、結果も出ていれば、もしかしたら思ったかも知れないけど（笑）。
　最優秀新人は“獲れたら良いな”と思っていましたが、選ばれた後に「おめでとう」って言ってくれる方が多いのにビックリしました。自分が思っていた以上のものなんだなと（笑）。最優秀新人争いは、17年の羽野直也さんと仲谷颯仁さんが凄かったですよね。お二人とは期が近いので、デビュー時から一緒に練習させてもらっていました。今は差がついてしまったけど、早くお二人に追いつきたいです。

― 強豪が揃う福岡支部は、レベルアップに最適かと。

千広　3月の福岡戦で瓜生正義さんと一緒だったので、いろいろとお話をさせていただきました。SGで活躍されている方ですから、レースも、エンジン出しも、全ての面でレベルが高い。お話できて、実りのある良い一節になりました。
　女子でも小野生奈さんや川野芽唯さん、竹井奈美さんとか、意識の高い先輩が多いので刺激になりますね。支部の環境は恵まれています。

― 充実していますね。

千広　本当にそうですね。レースやイベントを含めて、自分が楽しいことをやれているので幸せです。エンジンが出ていないときでも得るものはたくさんあるし、充実しているなって感じます。

― エンジンが出ていないときでも得るもの？

千広　確かにエンジンは絶対出さなきゃと思うし、厳しいエンジンだと凌げません。でも、今は結果を出すことより地力を底上げする時期。土台を固めるには失敗も経験だと思って、いろいろな調整を試しているんです。
博美　私は目の前のレースを勝つことだけに必死でした。いつも不安で、レースが楽しいなんて思ったことがありません。“土台を固める”なんて考えたこともなかったし、そう考えること自体、違うなと思います。ただ、エンジンもちょっとずつ変わっているので、順応性がないと長くは続けられないでしょうね。
千広　どうしてもエンジンが出ないときでも、ターンに力があれば凌ぐことができるはず。だから、やっぱりターンを磨くことが先です。

最優秀新人はSGデビューも規格外！　SG初出走は初日12R・ドリーム戦。

― SGデビュー戦はドリーム4号艇です。

千広　なんか畏れ多いですね…。まだ自分の力ではSGに行けないので、ファンの方にチャンスをもらえたのは有難いです。まさか4位でドリームに乗せてもらうとは思っていなかったけど。

博美　得票数が多すぎて怖いくらいですね（笑）。でも、やらなきゃいけないことをしっかり持っている子なので、SGでも大丈夫です。
千広　いただいた13,294票は、今大会への期待ではなくて、SGの舞台を経験して欲しいって意味があるんだと勝手に思っています。今回はSGを経験すること自体に意味があると思うので、しっかり勉強して、今後に繋げたいと思います。
博美　SGに出続けるためには、目の前にある糸をつかみ続けなきゃいけないと思います。今回のオールスターで多くのことを吸収してきて欲しいですね。
千広　オールスターでの結果がどうであれ、自分が成長したと思えたら良いし、そうありたい。でも、できれば水神祭はしたいです（笑）。